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あやしあやかし:4

おひさしぶりです。
絶賛ポケヤボ中です。
時間があれば明日更新予定です。
4は正則と幸村です。どぞ。




屋根の上から正則は玄関前に立つ父子をまじまじと見眺めていた。
小さな体に似つかわしくない大きなリュックを背負い、右手で父親の左手をぎゅうと握り締め、左腕で白灰色の毛並みをした狗を抱いている。ぬいぐるみのように抱いているせいか、だらりと胴は伸びきり些か苦しそうだ。落ちてはならないと身じろぎすれば幼子は重たいだろうに抱き直してはもこもこする毛並みに顔を埋めてよろこんでいる。それとは悲しくも正反対の父親の方に連れられている化け猫を見れば、常人には見えぬ赤い糸が猫又の首に括られている。正則はあまりにももの悲しい猫又の姿に閉口した。
「我が息子よ!ここがあたらしい我が家だ!」
「わあ、おっきいです、ひろいです!」
「そして、聞いて驚くな!なんとあたらしいおうちにはおふろがついているのだ!」
わあわあと喜んで飛び跳ねる幼子の姿はなんとも愛らしい。正則の顔が自然と緩んだ。
「で、では父上!今日からは台所で体を洗ってお茶碗をわるなんてことはないわけですね!」
そうだ、と快活に笑う父親に、正則はなんだかおかしな親子が来てしまったものだと頭を掻いたのであった。
 
新しい親子の家は二人と二匹が生活するには広く立派であった。父親である自称拝み屋の昌幸は家を空ける多く、幸村は今日も今日とて一人座敷で清正と遊んでいた。左近は昌幸に強制連行されていったようだ。正則はこのときを待っていたといわんばかりに幸村と清正の前に姿を現した。
「なあ、おれとあそばねぇ?」
突如湧いて出た強面の男に、幸村は一瞬動きを止める。清正の両前足を持って《せっせっせっ、》をしていた幸村の真ん丸な瞳がまっすぐ正則を射抜いている。けれど直ぐに幸村は笑みを浮かべ、声を弾ませて訊ねる。
「おにいさん、あそんでくれるんですか?」
久方ぶりに自分に向けられた言葉に、正則は嬉しくなって満面の笑みで肯いた。ぱあ、と幸村の表情が輝いて、ごそごそと隣にあった小ぶりの箱を漁り始める。すると現れたのは幸村の手のひらには些か大きい不格好なお手玉が7つ。明らかに手作りのそれは、形が歪で小豆ではなく明らかに小石が混ざっている(かろうじて救いは小さなまるみを帯びたものであったことだが)正則はお手玉を三つほどむずと掴むとひょいひょいと跳ね上げた。気も遠くなるほど昔からよく手慰みにしていたことで、まさのりにとっては朝飯前のことであったが、幸村は大層喜んだ。自分も、と三つ掴んだのはいいが、落ちては拾い落ちては拾い、結局お手玉二つをぎこちなく上げていた。お手玉遊びに十分満足すると今度は正則と幸村は清正と遊び始めた。清正用に幸村が買ったかみかみボールを幸村は正則に、正則は幸村に転がす。最初ほど興味ないというように前足を組んでその上に顎を載せて目を閉じていた清正であったが、ボールが跳ねる音を聞くたびに、ぴくりぴくりと耳が反応している。それが楽しくて、わざとボールを清正の鼻頭に転がしてやったりもしてみる。結局誘惑に勝てなかった清正はかみかみボールに齧り付きである。
「なあ、こいつの名前は?」
「きよまさ、です」
そっか、と人懐こい笑みを幸村に向けて、よろしくな、清正、と正則はかみかみボールに夢中な清正の頭をごしごしと撫でてやった。乱暴な手つきであるが温かみのある手だ。
丁度その時夕刻を告げる鐘が鳴った。幼いころから鐘が鳴ったら帰ってくるようにと言われていた幸村は、は、気づくと眉を下げて悲しみの表情になった。どうした、と正則が俯いてしまった顔を覗き込む。ぎゅうと幸村は正則の手を握る。
「もう、かえってしまうのですか」
夕刻とはいえ昌幸が帰ってくるにはまだ時間があった。夕飯は暖めて、と言われた通り昌幸は外が真っ暗になっても帰っては来れないということであった。寂しいと仕草表情から滲みだしている幸村を正則は組んだ膝上に抱き上げた。
「安心しろって、かえんねーよ。おれの家はここだからな!」
はて、と幸村は首をかしげた。
「は!もしかして正則どのは新しいははう、」「なにおそろしいこといってんだぁあ!!」
幸村の驚愕の声を遮るように派手な音を立てて襖を開いて現れたのはまぎれもなく父昌幸であった。自分より一回りも体躯の良い隆々とした男に首輪をかけて引きずる姿は清清しいほどシュールである。
「ほら、見なさい、この鳥肌!そ、想像しただけでも…」
蒼白になって身を震わせる父親に、幸村は何をそんなに慌てているのかとわからぬようである。そして昌幸を宥める見知らぬ男を見上げて閃いた、と目を輝かせて訊ねる。
「ならば其のお方が幸村の新しい母上なのですね!思っていたよりは不恰好で胡散臭さの拭いきれぬお方でありますが、幸村はおうえんしております!」
舌足らずな幼子に「不恰好」「胡散臭い」と罵声を浴びせられ、左近は肩を落と、す前に「滅殺!」という昌幸の叫び声と渾身のアッパーを顎に受け、畳の上に沈んだのであった。
おお、と感嘆の声をあげて喝采の手を叩く正則と、いまだ状況を良く把握できていない宿り主である幸村を前に、清正がその鋭い眼を更に細めてため息をひとつついた。
 
 
 
あいかわらず左近の扱いがひどい。

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